スノークラブの社会解析

マスマーケターが社会事象に対して大雑把に考えを書いていきます。

【考察】20センチュリーウーマンをみて「ひとり親」への人的支援を考える

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①母と息子をテーマにした映画

「20センチュリーウーマン」という映画を見ました。あらすじは、1979年のアメリカ、南カリフォルニアを舞台にした、シングルマザーの母親と思春期の一人息子を中心に同じアパートに住む、ジェイミーの幼馴染で年上の彼氏との妊娠を疑うジュリー、お姉さんのような赤髪の写真家アビーや、無骨で無口で木を掘ることに関心のあるマークが母親(ドロシー)のアパートで一緒に生活する様子を描いたものです。

監督自身の15歳の時の体験を元に描いた作品だそうで、母親の不器用な愛情と息子への関わり方、少年の性や女性という存在に対する関心、退廃的なヒッピーやダンスクラブ、タバコの吸い方やその当時の音楽やダンスなど、その当時の息遣いが本当にリアルで、各個人の半生を振り返るシーンもあるのですがニクソン政権やレーガン大統領といった時代背景も絡んで興味深い映画でした。

www.20cw.net

 

さて、本作品に登場する母親は、一人息子の成長を見守ると同時にその過程で起こる、理解が難しい行動やトラブルに心を悩ませながら日々を過ごしています。思春期に差し掛かるまでは、自分のコントロール下で息子の行動も把握できていたのですが、思春期に入ると友人達と危険な遊びをやったり、自分には馴染みのないミュージックやナイトクラブでのダンス、まだ早いと思われていた性との関わりで女性に対して新しい視点を養っていく息子の変化に本作の母親は戸惑います。

しかし、その全てを否定して自分で息子をコントロールしようとするのではなく、幼馴染の少女やお姉さんのような役割の女性に息子の相談や導き相手になって欲しいと頼み、自らも息子を理解しようと積極的に息子に関わる人物やその趣味等にチャレンジします。本作の母親は離婚しており、一人息子を育てるという環境ではあったものの、このように父親がいない中でも、周囲の人との関係性を活用しながら、もどかしさもかかえながら、息子をはじめとした周囲の人達へ影響を与え続けます。

 

 

②ひとり親への人的支援制度の不足

上記のように母親と息子のみの関係性の場合、異性である息子が成長するにつれ、息子のことがわからなくなったり、ぶつかったりしてくることがあるのですが、そこで自分が今まで果たしてきた母親としてだけではなく父親の役割も持ちつつ息子に関わらなくてはという認識も意識下にはあるのでしょう。

私のイメージで、象徴としての母親の役割「無償の愛・守り慈しむ・食事や育児の主体・優しさ・暖かさ等」に対して、父親の役割は「社会的規範・楽しさ・厳しさ・生きる糧の獲得等」といったことがあります。この全ての役割を一人の人間が背負うにはあまりにも負荷が大きすぎて、現実的に男女どちらかの性別を与えられている我々にとっては、片方の役割を果たすことでも精一杯です。

子供の発達段階において、このような、父親と母親の役割を担ってくれる存在が本来的な成長にとっては必要だとすると、母子家庭等の「ひとり親」においてはそれを代替的に担ってくれる外部の存在が必要となってきます。もちろんそれは、母親の親や家族、友人であったり近所の人であったり、あるいは教育関係者かもしれませんが、ただでさえ一人で仕事もしつつ育児もしているひとり親にとっては、このような外部の繋がりを能動的に探すだけでも多くの困難を伴います。今作の映画に登場する母親は、自身が経営するアパートの住人の助けを借りつつ能動的に関わっていくことができていましたが、誰しもがそのような繋がりを構築できるとも思えません。再婚して新たな父親(母親)との家庭を作っていく方向が本来的かとは思いますが、それまでの期間が空いたり、実現困難な場合も多々あるかと思いますので、日本においても現状以上に精神的な繋がりも含めたひとり親に対する支援が望まれます。

もちろん社会のシステムとして日本にも社会保険等において金銭的な免除制度や負担軽減があったり、児童扶養手当等の給付金もありますが、上記のように子供の成長に必要な人間関係といった面での保障は多くないために、各個人の置かれている周囲のサポートの次第で実際の養育環境が大きく異なってきているのが現実としてはあります。(政府の施策で相談事業や一時的なヘルパー派遣等はありますが、広く活用されているとはいえず、持続的な人的支援ではありません)

このように持続的な人的支援を実際の制度として整えるのは難しいところがありますが、ひとり親が増えている昨今(直近25年間の推移)においては民間の団体も含め、社会の繋がりを簡単に利用できる制度として整えていくことで、より選択肢の多い自由な社会へと繋がっていくのではないでしょうか。

 

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③地域ホームステイのススメ

具体的なアイデアとして、地域で活用できるホームステイサービスなんかがあるかと思います。子供が外国に留学する際にはホームステイが一つの選択肢になろうかと思いますが、そンなイメージです。ひとり親が住んでいる地域において、簡単にWEBで登録できるボランティアを募り、しっかりと対面した上で、子供が近所にホームステイすることで、自分の家庭だけでは足りない学びを得ることができると同時に、その繋がりは近所であるからこそ、ホームステイ後も持続的に続いていくことが期待できます。昔の村社会のように、地域ぐるみで各家庭のサポートをすることは無理でも、特定の、あるいはいくつかの家庭同士の制度的な繋がりでのサポートなんかはできるんじゃないかと。もちろん、前提として安心安全なことが絶対条件ですし、簡単簡便に手続きができることも必要です。

上記のような例として調べてみたところ、実際に札幌で近所に泊まるホームステイ事業を過去に開催した例が出てきており、各自治体で推進しているところもあるそうです。事業コスト自体が低い上に、地域コミュニティの活性化にもつながるプログラムとして、自治体でも受け入れられているそうです。(2010年の例)このような制度を広く整えていくことも、一つの方向性かもしれません。

www.sapporo-jc.or.jp

 

いずれにせよ、政府が働き方改革を進めていく中では、まだまだ待機児童の問題もありますし、ひとり親において仕事と家庭の両立をしていくことは思った以上に疲弊していってしまう現状もあります。保険や助成金のみならずに、こうした人的支援制度も含めて、社会保障として整備していくことで、政府が目指す労働力の底上げにより成長への道筋が開けてくるのではないでしょうか。