スノークラブの社会解析

マスマーケターが社会事象に対して大雑把に考えを書いていきます。

藤井四段の強さとプロのハードル

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藤井四段のプロでの連勝記録が話題になっています。6月23日現在新記録タイの28連勝と並み居るプロ棋士相手にその勢いはとどまるところを知りません。

 

www.sankei.com

 

①将棋ソフトAIとその手法

 上記の記事では終盤がもともと強かったことに加え、AIを利用した対局で序盤と中盤の大局観も養っていったことが現在の強さを形作っていると言われています。

藤井四段が学習に使用しているAIはわからなかったのですが、Ponanza等のような将棋ソフトが近年トッププロ棋士をも上回る成績を叩き出しています。

その仕組みは「評価関数」と呼ばれる駒の価値に評価をつけそれを利用して盤面の形勢判断(有利不利)を導き出し、自身が最も有利(評価が高くなる)手を打っているそうです。現在の将棋ソフトに大きな影響を与えたBonanzaが2006年以降に「ボナンザメソッド」と呼ばれる大量のプロ棋士棋譜から教師あり学習として機械学習を行なったことで、飛躍的に大局観を向上させました。

その結果、ドワンゴの電王戦などで将棋ソフトはプロ棋士に勝ち越しています。

将棋でも囲碁と同じように、過去のプロ棋士棋譜(5万譜程あるそうです)から学習し、ソフトの性能を上げ、強くなったソフト同士を対戦させることによりデータを蓄積して学習を進めていく手法が取られており、最新のものではディープラーニングの技術も使われています。

 

②藤井四段はなぜプロ棋士に連勝できるのか

 藤井四段が強くなった経緯として、詰将棋で終盤の力を伸ばし、将棋ソフトAIも利用することで大局観を養ったとありました。私も小学生の時に将棋が上手くなろうと、詰将棋やコンピューター対戦に挑戦したことがあり、詰将棋は練習すればしするほど終盤での棋力に生かすことができます。また、序盤や中盤の指し手は定石やプロ棋士が書いた攻略本を参考に学んでいました。そのように学習していっても、経験のある強い人との対局になると、終盤での読みの力が優っていても中盤での指し手が経験のある人に対しては負けていました。(もちろん終盤の力不足もあるけれども)

 

考えるに、そうした序盤中盤で必要とされる大局観を養うに、従来からある定石やプロ棋士書物をいくら完璧に学習していっても、それ以上にはなれないということがあります。プロとの対戦では、そういったことが全て身についていて、さらにその中で切磋琢磨して手を磨いてきたプロ相手に過去の定石を覚えただけでは勝ちきることは難しく、プロが予測しない創造的な好手を指すことができて、初めて勝機が見えるのです。

 藤井四段は、成長過程において頭の回転や空間把握能力・先を見通す分析力を飛躍的に高めていく中で、AIを学習の一環として利用していました。AIと対戦することによって、それまでの常識にはない創造的な手や不確実な盤面でも負けない手をさせるようになったと考えます。自分よりも、そして一定のプロよりも強いAIで研究を続けることによって、実際のプロとの対局では怯むことなく冷静に大局観をもって指し続けているのでしょう。加えて多くのプロは藤井四段と初対戦ということも、連勝の一因になっていると思われます。

 

③プロ棋士のハードルの高さ

それにしても、プロ棋士になることのハードルは高く、アマチュア四段以上のレベル(アマチュアの中で上位3%)で奨励会に入会できて、その奨励会の中で半年に2人しかプロ棋士(四段)に昇格できず、それも奨励会の中で1%しか行くことができない狭き門です。
ようやくプロになっても、各順位戦・タイトル戦に挑戦していきますが、そこでトップに立てるのはほんの一握りです。(最高位のA級はわずか10人)

このような、トップ級のプロ棋士が集まる世界で連勝していくことは、並大抵のことではなく、だからこそニュース価値も大きいわけです。野球のピッチャーで例えると高卒ルーキーが開幕から登板し20勝、あるいはバッターなら40本塁打とでもいいましょうか。

ちなみに藤井四段の現在のクラスはC級2組で、毎年昇格していってもA級になり名人に挑戦するには最短で5年かかるとのことで、トップ棋士との対戦がたくさん見られないのは残念ですが、現在勝ち進んでいる竜王戦では可能性があります。

竜王戦トーナメントでは、一度奨励会で敗れている佐々木五段やタイトルホルダーの久保王将、そして将棋界のレジェンド羽生三冠を倒してようやく、現タイトルホルダーの渡辺明竜王に挑戦することができます。

藤井四段にとっては長い道のりだけど、なんとか勝って伝説を作ってほしいものです。

 

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     (引用:日本将棋連盟第30期竜王戦 決勝トーナメント・七番勝負